建物の老朽化は安全性に直結し、その修繕は建築基準法によって規制されます。
修繕は経年劣化した部分を原状回復する作業であり、主要構造部分の修繕が半分以上に達す
ると大規模修繕とされます。
これは住民の安全と快適さを保つための重要な措置です。
この記事では、大規模修繕工事の建築基準法における定義について説明します。
またアパートのオーナーや管理会社で、安全な施工を行いたいとお考えの方もいらっしゃるので
はないでしょうか。
本記事では、工事の安全確保に必要な足場の対策についてもご紹介します。

□大規模修繕工事の建築基準法における定義

建築基準法では、修繕とは、「経年劣化した建築物の部分を、既存のものとほぼ同じ位置に、ほ
ぼ同じ材料、形状、寸法のものを用いて原状回復を図ること」を意味します。

1: 修繕の対象

修繕の対象となるのは「建築物の主要構造部」です。
主要構造部の具体的な定義は、壁、柱、床、梁(はり)、屋根または階段を指し、建築物の構造上
重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小梁、小階段、屋外
階段などは含まれません。
主要構造部のうち、どれかひとつでも半分以上の修繕を行う場合は、大規模修繕とみなされま
す。

2: 修繕と模様替え

大規模修繕に似た概念として、「大規模の模様替え」があります。
模様替えとは、「建築物の構造・規模・機能の同一性を損なわない範囲で改造すること」であり、
例えば木造の階段を金属の階段に置き換えるなど、既存の箇所を異なる素材で作りかえるケー
スがこれに当たります。

3: 国土交通省のガイドライン

国土交通省は、大規模修繕計画の作成に関するガイドラインを公開しています。
このガイドラインは、マンション管理組合が行う長期修繕計画の作成・変更についての標準的な
様式や、長期修繕計画を作成するための基本的な考え方、長期修繕計画の作成方法を示したも
のです。
このガイドラインでは、大規模修繕を「建物の全体または複数の部位について行う大規模な計画
修繕工事(全面的な外壁塗装等を伴う工事)」と定義しています。

□大規模修繕工事の内容

大規模修繕工事は、建物の耐久性や安全性を保つために行われる重要な工事です。
ここでは、主に共有部分に関わる工事内容についてご紹介します。
工事は、事前の住民説明会を経て、住民の同意を得てから着工されます。

1. 仮設工事

最初に行われるのが仮設工事です。
これには、現場事務所や足場の設置が含まれます。
足場周辺にはメッシュシートが取り付けられ、落下や塗料の飛散を防止します。
これにより、工事中の安全確保と品質管理が行われます。

2. 下地の補修工事

天井や壁などのコンクリート骨組み部分に発生したひび割れなどの修繕を行います。
良好な下地補修が施されることで、後続の工程や建物全体の耐久性向上につながります。

3. タイルの補修工事

タイルは経年劣化により接着が弱まり、剥がれることがあります。
これにより雨水の侵入や安全上のリスクが生じるため、タイルの補修が重要です。
防水性や耐久性の回復を図ります。

4. シーリング工事

外壁のつなぎ目や窓のまわりに使用されるシーリング材の交換です。
年数とともに硬化やひび割れが進むことで、雨漏りの原因になる可能性があるため、新しいシー
リング材での交換が推奨されます。

5. 外装の塗装工事

外壁の塗装は、風雨や紫外線から建物を保護するために重要です。
劣化した塗膜の除去と新しい塗料による塗り直しを行い、建物の美観と耐久性を保ちます。

6. 鉄部の塗装工事

外部階段や手すりなどの鉄部分は、錆びが進行すると見た目だけでなく耐久性も低下します。
錆落としと新しい塗装により、鉄部分の保護と耐候性の向上を図ります。

7. 屋上の防水工事

屋上に施工された防水層の補修や交換です。
防水層の劣化による水漏れは、建物の構造部に深刻な影響を与える可能性があるため、早め
の対応が必要です。

8. 給排水などの付随する工事

給水管や排水設備の点検と必要に応じた補修です。
これにより漏水や設備の劣化によるトラブルを未然に防ぎます。
大規模修繕工事は、建物全体の安全性と快適性を維持するために不可欠な作業です。
住民の安全と快適な生活環境を守るために、適切な工事が行われます。

□大規模修繕工事を安全に行うための足場の安全確保

足場の安全確保は、建設現場における最重要課題の一つです。
作業員の安全はもちろんのこと、マンションの住民や周囲の安全も考慮しながら、計画を行いま
す。

1: 壁つなぎと落下物対策

足場の設置にあたり、まずは足場の安定性を確保するために壁つなぎを行います。
これは建物に足場をしっかりと固定することで、足場が倒れるリスクを軽減します。
特に開口部のある場所では、車両の通行や落下物のリスクが高まるため、硬い板を敷いて落下
物対策を強化します。

2: ラッセルネットの設置

開放廊下など通常の開口部でも、各層の天井付近に「ラッセルネット」と呼ばれる網を設置するこ
とで、部材や材料の落下を防止します。
これにより、作業中の落下事故を未然に防ぎます。

3: 注意喚起と照明設置

通常は足場の設置がない場所に工事期間中に足場を設置する際には、安全に配慮し、危険箇
所には光るチューブライトを設置して注意喚起を行います。
これにより、周囲の人々が安全に通行できる環境を維持します。

4: 作業員との綿密な打ち合わせ

修繕工事の足場設置にあたっては、作業員との綿密な打ち合わせが欠かせません。
居住者の安全な生活を確保しつつ、工事完了まで安全に作業を進めるための戦略を共有し、事
故を未然に防止します。
足場の設置と安全対策は、工事の順調な進行だけでなく、周囲への影響を最小限に抑え、安全
な作業環境を確保するために不可欠です。

□大規模修繕工事に関する申請

大規模修繕工事を行う際には、建築基準法に基づく申請や届出が必要となる場合があります。
以下の工事のみを行う場合、建築基準法上の申請や届出は必要ありません。
1: 屋上やバルコニー、外廊下の防水工事
2: コンクリート外壁のひび割れ修理
3: タイル外壁の浮きや剥落部分の修繕
4: 外壁の伸縮目地のシーリング工事
5: 外壁の塗装工事
6: 玄関ドア、手摺、MB扉、鉄部などの塗装工事
7: エントランスやその他共用部分の修繕、修理
8: 動作不能や機能が損なわれた設備機器の修理、交換
一方、以下のような工事を行う際には、建築基準法第6条に基づく建築確認の申請が必要です。

1: 床面積10㎡以上の増築(防火地域、準防火地域は増築面積に関わらず全て必要)

2: 主要構造部の一種以上の過半の修繕

主要構造部=壁、柱、床、はり、屋根、内部階段
修繕:既存部分をほぼ同じ位置、形状、材料で造り替えて性能や品質を回復する工事

3: 主要構造部の一種以上の過半の模様替え

模様替え:既存部分を異なる材料や仕様で造り替えて性能や品質を回復する工事

4: 建築面積、床面積に変更が生じる工事

例えば、庇の出が1m以上になる場合、集合エントランスに庇を新設する場合、バルコニーの出
幅が2m以上になる場合など
これらの工事により建築面積や床面積に変更が生じる場合には、個別の検証が必要です。

*建築基準法以外で申請、届出が必要となるもの

1: 機械等設置届(外部仮設足場の設置時)

仮設足場の高さが10m以上で組立から解体までが60日以上の場合には、設置工事開始の30日
前までに所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

2: 道路使用許可

仮設足場設置などで車両を長時間停車させる場合は、道路交通法第77条第1項1号に基づき警
察署長の許可を取得する必要があります。

3: 道路占有許可

仮設足場が道路にはみ出す場合には、道路法32条の臨時的設置物に該当し、道路を占有する
ための許可取得が必要です。

4: 労務関連

現場事務所を開設しかつ事務員が常駐する場合、常時10名以上の作業員が労働する建設現場
では、労働基準監督署に適用事業報告等の届出が必要です。
これらの規定を遵守し、適切な手続きを行うことが重要です。

□まとめ

大規模修繕工事は、建物の安全性と耐久性を長期にわたって保つために不可欠です。
建築基準法に基づく定義によれば、経年劣化した主要構造部分を原状回復することが求めら
れ、その範囲では主に壁、柱、床、梁、屋根、階段などが対象となります。
この修繕作業は、住民の安全確保だけでなく、建物の価値と美観を維持するためにも重要です。
足場の安全確保は特に重要であり、壁つなぎやラッセルネットの設置など、落下や倒壊のリスク
を最小限に抑える対策が施しましょう。
これにより、住民の安全と快適な生活環境を守りながら、修繕工事を順調に進めることが可能と
なります。
本記事が大規模修繕工事の建築基準法における定義や安全に行うためのポイントについて理
解を深める参考になれば幸いです。


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